コラム
2025年9月1日
おままごとは女の子の遊び?
私には忘れられない人がいます。今から10年以上も前、まだ2才ほどだった息子を連れて、よく市の児童館に遊びに行っていました。そういう場所では、同じような年齢のお子さんを連れたお母さん同士で話すことがよくあります。その日も、とある女性が私の息子より小さい男児を連れて遊びにきており、その方と少し話しました。するとその方が、悩んでいる様子でこう話し始めました。「息子がおままごとに興味があるようで心配なんです。」 話を聞くと、その息子さんは児童館でも家でも、おままごとをして遊ぶのが好きなのだそうです。当時よくテレビに出ていた、ゲイを公表していたタレントさんが、「幼い頃からおままごとが好きだった」というのを聞いて、この子もひょっとして男性を好きになるのではないか、と思っている、ということでした。そこで私は、料理をするということに性別による別はないこと、私の上の息子達もおままごとが好きで、誕生日には木製の少し良いおままごとセットをあげたこともあり子どもたちはそれが大好きなこと、そして何より、料理を作ることはあなたが毎日やっていることだから、息子さんはあなたの真似をしているだけなのではないか、ということを話しました。するとその女性の表情がパアッと明るくなり、「そっか、私の真似をしてたのかー!」ととてもホッとした様子で、息子さんに笑顔を向けられました。
これは10数年前の話なので、現在なら、「おままごとが好きならこの子の心の性は女の子なのかもしれない」という話になるかもしれません。そもそも、おままごと(=模倣遊び)は、幼児の発達の中に適切に見られるものであって、それが料理やケア労働を模しているからといって、そこに「女性性」ましてや性志向は関係ありません。パイロットインキ(株)のおもちゃ「メルちゃん」のHPでも、研究により、お人形遊びが言語の発達を促し、「他者理解」や「心の理論(自身と他者の認知の分離)」の発達に寄与する、ということが報告されています。お人形遊びやおままごとなど、かつては「女の子の遊び」とされてきた「ケア労働の模倣」が、女児・女性の他者への想像力を育んできたということであって、それがもともと「女の子だから」備わっていたものではないのです。事実、パティシエやコックなどのプロの料理人は、男性の方が圧倒的に多いです。料理=女性、などというのは、ステレオタイプのジェンダー感であると言わざるを得ません。
最近はあまり聞かなくなったようにも思いますが、「女子力」などという言葉もありましたね。料理ができる、ケア労働ができる、ということが「女性性」であるならば、なぜ、プロの料理人は男性ばかりなのか。そして同時に、なぜ家庭の中では女性ばかりがそれを担わさせられるのか。有償労働は男性、無償労働は女性、なのはなぜなのか。これは資本主義と女性差別における真っ正面の問いです。
あの時悩んでいた女性とはその後会うことはありませんでしたが、きっと息子さんとおままごとを楽しめるようになったのではないかと思います。子どもの遊びに「男の子の」「女の子の」などというものはありません。女性を無償でケア労働に従事させるために作られた「女の子は人形遊びやおままごとが好き」などという言説に惑わされず、その子の好きなものを一緒に遊んでもらえたらと思います。
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