コラム
2025年6月23日
今ここにあるディストピア
梅雨空はどこへやら、真夏のような暑さが続いています。一方で雨が降ればスコールのよう。ここ10年ほどですっかり日本の四季は薄らいでしまって、夏と冬が1年のほとんどを占めるようになり、自然災害も増えました。気候変動は人の生活や命を奪うということが、ここ数年で可視化されたと感じます。
今月、NHKの「100分de名著」を楽しく見ています。マーガレット・アトウッド著「侍女の物語」「誓願」の2つを取り上げていますが、テキストも購入してそちらも読みながら見ています。「誓願」の訳者である鴻巣友季子さんの詳しく視座に富んだ解説も相まって、作品の魅力を感じられる、とても有意義な時間になっていると感じます。そしてその本を読みたい!アトウッドの新刊もあるらしい!と意気揚々と本屋さんに赴き、「在庫なし」と出た時の悲しさよ。「100分de名著」で取り上げられたら、実際に読みたいって人増えると思うんだよな…なんなら毎月テキストの横にその都度取り上げられてる本置いたら売れると思いますよ…?
本の内容は番組に詳しいので割愛しますが、これらの本が今取り上げられている理由の肝は、作品に描かれているディストピアが現在と通じているということです。今現在、私たちの周囲で起こっていることが、フィクションとして作品の中に描かれている。番組で紹介されているディストピア洗脳三原則-「国民の婚姻、生殖、子育てへの介入と管理」「知と言語の抑制」「文化、芸術、学術への弾圧」-これらはまさに今、私たちがさらされている状況なのです。少子化の抑制だとか経済の活性化だとかもっともらしい理由をつけて、これらの原則がまかり通ってしまっている。為政者からすると、歴史を知らず為政者の言葉を鵜のみにするような国民であれば、さぞかしやりやすいでしょう。現在の備蓄米の顛末を見ても、まるで映画マッドマックスの独裁者イモータン・ジョーのようです。
生殖を管理されたディストピアでは、女性が性的にも子どもを産むものとしても資源として利用され、それがさも良いことかのように扱われます。それが女性として幸せなことなのだと。そう考えると、女性にとっては、常に世界はディストピアなのです。過去のものでも今再開したものでもない、ずっとそうだった。女性が性的にも産む性としても搾取されなかった時代などないのです。そんな状況に警鐘を鳴らしたのがこれらの作品であるし、まさにその「知」を、私たちは剥奪されるわけにはいかないのです。
学び、知り、言葉にし、批判する。これらが無ければ、人は進歩もしないし搾取も無くなりません。ユートピアはディストピアと表裏一体だと、番組内でも言われていました。誰かにとってのディストピアは、誰かにとってはきっとユートピアなのでしょう。それはどんな世界なのか。私たちは考え続け、声を上げ続けなければならないのです。
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