コラム
2024年7月30日
ヒーローならぬカウンセラーが暇を持て余す世の中に
当カウンセリングルームを立ち上げて、早いものでもう1年と8か月ほどが経ちました。最近は知っていただく機会も増えて、来談される方も増えてきました。当方開業臨床ですので、来談される方の人数が経営に直結します。何ものにも縛られず自分の精いっぱいの臨床ができる反面、来談される方の悩みによって経営が成り立つというこの形にはジレンマを抱えていますし、因果な商売だなと思います。生きていれば避けられない体の不調とは違う、本来無くてもいい、人の心の不調を飯のタネにしているのですから。
もうすぐ10年に渡る週刊少年ジャンプでの連載が終了する「僕のヒーローアカデミア」、ずっと追っていて大好きな作品です。ここに登場するNo.2ヒーロー、ホークスはこう言います。「ヒーローが暇を持て余す世の中にしたい。」分かるよホークス。私もそう思う。カウンセラーが必要ない社会ならどんなにいいだろう。カウンセラーなんていなくたって、誰も困っていなくて、みんな幸せで、みんなが楽しいときは笑えて、悲しいときには泣ける世界なら。誰も誰かに加害しない、真っ当で、正しくて、でも間違えることにも寛容な、そんな世界なら。
カウンセリングと病院の大きな違いは、最終的に手を放すことだと思います。大きな病気についてはそうではないかと思いますが、町の病院だと「また何かあったら来てくださいね」と言えますし、体調を崩したときにすぐに行けるかかりつけ医がいることは便利でしょう。ですが、私は、カウンセリングの終結とは、カウンセラーがいなくても、自律的に生きることができるようになることだと思います。カウンセリングを受けなくても、周囲の人に頼り、自分の能力を信じ、自身の選択に責任を持ち、それを受け入れ、また前に進めるようになること。子どもが自転車の補助輪を外して走り出すように、カウンセラーの手を放して進めるようになること。それを目指すのがカウンセラーの仕事だと思っています。でも本当なら、この世界がきれいなら、私の手助けなんてなくても、あなたにはもともとその自転車をこいでどこまでも進める力があるはずなのに。
悔しい。悲しい。憤る。なんでこんな世界なんだ。
「僕のヒーローアカデミア」の中では、最終回を前に、「ヒーローが暇を持て余す世の中」になるための一つの解が示されています。単行本派やアニメ派の方にはネタバレになるので内容は差し控えますが、私個人も、一人の支援職として、やれるだけのことをやろうと感じられるものでした。
理想論であることは分かっていますが、「カウンセラーが暇を持て余す世の中」にいつかたどり着きたいと思います。俺の出せる最高速度で、ね。
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